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企業におけるアートの役割とは? Hamee株式会社がビジネスにアートを取り入れる理由

Hamee株式会社と女子美術大学は、2019年にHamee社内で開催されたアーティストインレジデンス企画「AIR in Hamee」のアーティスト選考委員と選出されたアーティストをパネリストに迎えて「AIR in Hamee 2019 シンポジウム」を開催しました。美術とビジネスの分野で創造性を発揮するパネリストたちが、3ヶ月間に渡るアーティスト・イン・レジデンスを振り返りながら、「企業におけるアートの役割」をテーマに語り合った、注目のシンポジウムをリポート。

2020.1.15

パネリスト
イケムラ レイコ | アーティスト、女子美術大学客員教授、ベルリン芸術大学元教授
音羽晴佳 | AIR in Hamee 招待アーティスト
菊竹 寛 | Yutaka Kikutake Gallery ギャラリスト・「疾駆/chic」編集長
水沢 勉 | 美術評論家、女子美術大学客員教授、神奈川県立近代美術館館長
樋口 敦士 | Hamee株式会社 代表取締役社長

モデレーター
宮口拓也 | Hamee株式会社 執行役員

なぜAIR in Hameeをやったのか?

樋口敦士(以下:樋口)は冒頭に、「会社は継続して新しい価値を生み出す。それはアーティストと一緒、社員一人ひとりもアーティストである」と語った。

「会社が成長するにつれて分業が進み、社員一人ひとりが自分の手を動かしたことが、会社が生み出す価値に直接的な繋がりを感じることが難しくなりつつある。上場してコンプライアンスや統制が多くなり、自由な発想が制限されていると感じてしまう人が出てきている。会社も中の人もアーティストも価値を創造すると言う意味では同じなのに、そう動けなくなりつつあると言う課題に対して、アーティスト・イン・レジデンスが何か気づきをくれるのではないかと考えた」と続けた。

樋口 敦士 | Hamee株式会社 代表取締役社長 Hameeは、モバイルアクセサリーブランド「iFace」の開発・提供、ネット通販の自動化システム「NEXT ENGINE」の開発・提供、IoTガジェットHamicの開発・提供する神奈川県小田原市の企業


3ヶ月間に渡りHameeでアーティスト・イン・レジデンスを体験した音羽晴佳さん(以下:音羽)は、Hameeが数ある選択肢の中から手間のかかるアーティスト・イン・レジデンスという手法を選んだ理由を質的なもの、量よりも感覚的な目に見えない価値なのではないかと予測し、AIR in Hameeの3ヶ月間で最終的な作品が出来上がるまでの「過程」に意味を与えるプランを練ったという。

アーティストは、どのようにしてHameeを理解していったのか?

音羽晴佳 | 女子美術大学美術学部絵画学科洋画専攻卒業、2015 年 100 周年記念 大村文子基金 女子美パリ賞を受賞し、パリ国際芸術都市 Cité Internationale des Arts に 1 年間派遣される。


音羽:「提案は、ただ独りで黙々と制作をして作品を提出するような一方通行ではなく、この場所、このタイミング、ここにいる 人たちと相互に影響しあえるように(呼吸をするように)何かをしてみたいと思い、社員の方々と対話する機会 として滞在期間中に 3 回の OPEN STUDIOというアーティストが自分のスタジオを一般に開放して制作のプランや途中経過を見せたり、意見交換や展示の相談などができる機会を設けました。」

1 つのオープンスタジオが終わるごとに作品を作るまでの過程を記録した冊子を作り、最後に計3冊を1つの本として製本し、社員に手渡されました。

オープンスタジオ1回目


社員の有志が小さな絵を製作し、吹き抜けの壁に飾って、対岸から双眼鏡で鑑賞する様子。


社員が描いた絵がつけられた風船が社内を浮遊する。


テクノロジーを駆使してサービスを生み出すHameeに敢えて糸電話を設置。


音羽:「糸を長くして吹き抜けの反対側にいる人と話せるようにしました。特に何か深い意味があってやったことではなかったですが、不便であること・不自由であることに興味があります。便利であることは、たくさんのことを素早く知るのに役立つかもしれないけれど、私たちが何かしらの不便さ、合理性を欠いてる状態のときこそ1つのことを深く「確かに知る」ということへの扉が開くんじゃないかという意識があります。実際に設置してみて、対岸に走っていって紙コップを手に取ることだったり、相手が話し終わったのを確認してる間があったり、糸の引き具合をお互い言葉なしで調節し合ったり、お互いの会話する意思みたいなものが可視化されているという印象があって…それがなぜか照れ臭く感じるのが興味深かったです。」



ロッカーを使ったインスタレーション。


ロッカーの中には、およそ20年前、大学生だった樋口が作ったHamee 最初のヒット商品のハイビスカスのストラップに関する社員のイラストが置かれていた。


音羽:「初めてこちらに打ち合わせで伺った時にこのストラップのお話を聞いて、ぜひ実物を見てみたいと思ったのですが、現物はもうないということで見ることは叶わなかったです。でも、創業のきっかけとなった象徴的な商品が、もうどこにもないということにとても興味を持ちました。Hamee の仕事の内容はもちろん、人の入れ替わりやオフィスも含め、すごい速さで変化・成長し続けている企業だからこそ、もう見ることができない象徴的なストラップという存在はHamee にとっても重要な存在のように私には思えました。そこで、樋口社長から聞いた情報を頼りに、ハイビスカスのストラップの化石のようなイメージで私がオブジェを作りまして、それを段ボールの引き出しに入れて、社屋のロッカーの1 つに展示しました。そのストラップが作られた年の1998のナンバーで開くように設定していて、オープンスタジオに来てくれた社員さんで、ハイビスカスのストラップのスケッチ…それぞれの遠い記憶の中、あるいは想像の中のスケッチを描いてくれた人に、ロックナンバーを教えて、化石の入っているロッカーの中に積み重ねるように入れてもらいました。」

このオープンスタジオの時にプログラム制御で作品を作ってみたいという話から、IoT部の社員と知り合い、制作で協力することに。

オープンスタジオ2回目

2回目のオープンスタジオの告知は、小さな丸シールを紙コップやトイレのドア、階段の手すりなど、社屋の様々な場所に散りばめて貼られた。


日時などの詳細をそれぞれのシールにばらばらに印字し、複数のシールを見つけ出して情報をつなぎ合わせることでオープンスタジオの詳細がわかるという仕組み。


樋口:「会社の中では、伝えたい事が中々伝わらないことがある。朝礼で話したり、チャットで連絡したり、部署ごとに伝えてみたり、あの手この手で伝えてみても全然情報が伝わらない。でも、音羽さんのやり方は一発でみんなにイベントを周知できてしまった。『こういうやり方があったんだ!』と思った。それまで社員は、新社屋の壁を汚しちゃいけないと思っていたところに、トイレの中だったり、ドアの裏だったり階段の目線の高さの位置への貼り方も、凝り固まった感じを壊してくれた。」


紙コップを引っ張って耳に当てると、録音されたハイビス カスのストラップの話が聞ける。

音羽:「音声は数人の社員さんにお願いして、自分の記憶の中にあるハイビスカスのストラップについて思い思いに語ってもらいました。インビテーションに使った小さなシールと同じように、意図せず隠れた存在になっているハイビスカスのストラップを、みんなのおぼろげな記憶の中で探し出そうとする、隠れていた断片をつなぎ合わせて想像するような試みでした。彼らの記憶が正確かどうかというのは重要ではなくて、曖昧な記憶だったり、見えないものを通してでしか物語ることのできない何かがあるのではないかなと思って制作しました。」


画面上で回るそれぞれの物が、それぞれのタイミングで動き、1時間に1度そのタイミングが合うようにプログラムされている作品。


音羽:「何度も改良してもらったのですが、最初はとても速いスピードでギュンギュン回っていて…なんというか、ちょっと面白い状態になっていて…展示するのを躊躇する気持ちもあったのですが、失敗してる状態を見てもらうっていうのもAIR ならではだなと思って、みんなに見てもらいました。むしろ関心を持ってもらえたり笑ってもらえたりと、意外にも好意的な反応が多くてびっくりしました。」


プログラム制御を用いている作品はHameeのIoT部の方々と協力して制作しました。


音羽:「オープンスタジオも2回目の頃には私もHameeに馴染んできて、たまたま通りかかった社員さんにはんだ付けを手伝ってもらったり、飛んで行った風船を回収してもらったり、コーヒーを淹れていただいたりとか、皆さんに色んなことを助けてもらって制作していました。」

水沢勉(以下:水沢):「クリエイティブなものは柔軟じゃないと成立しないし生まれてこない。性格的に定量化できない、つまり評価をするのが難しい。半分冗談かと思えることに面白みを見つけられるような発想をこの空間自体が既に持っていて、その中に音羽さんが入っていった印象を受けた。

すごく新鮮な発見を導く、それも大げさじゃなく、ふと気づくと「あっ」と小さく息を飲む作品が日常的にあることが、僕らの創造性をいい状態に設定してくれる。

学芸員が展覧会を作るにしても忙しくて他のことが見えない、全く余裕がない仕事ぶりになってしまう。でもAIR in Hameeの発想は、「余裕を持ちなさい」というアーティストのメッセージをやわらく出している状態を会社の空間の中で出来るとは、今まで考えたこともなかった。

アーティストを審査する際に、キーワードとして『隙間』を大事にする『気づき』に神経を動かしている人を選ぶべきだと思って、音羽さんを選出した。予想外の面白さだと思っている。」


イケムラレイコ(以下:イケムラ):「この空間には自由な精神からくるプロセスを大事にする、目標を見つけて走るのではない、心の余裕とポリシーの可能性を感じた。」


菊竹寛(以下:菊竹):「アーティストによって伴走の仕方はいくらでも変わってくるが、このプロジェクトの完結した姿を見ると、Hameeの方の伴走の仕方は完璧だと思う。作品の制作まで一緒にやられているのは素晴らしいことだと思う。」


音羽:「当初は余裕がなかったけれど、今回『信頼すること』が大事な鍵になった。信頼するとは、相手の力を信じること。みんなに「わからない、つまらない」と思われてしまうことを恐れないで「わからなかったとしてもHameeのみんなならきっと質問してくれるし、私が楽しんで作っている空気をみんなも楽しんでくれる」という風に捉えられるようになってから、気持ちよく過ごせるようになった。社員さんたちが『一緒に』楽しんだり成長しようとしてくれているんだと気付いた時に信頼することができました。」

オープンスタジオ3回目

AIR in Hamee には最終的に平面作品に結実するという約束がある。その平面作品を普段の人通りが少ないフロアでの制作から、ゲリラ的に2階の執務エリアで公開制作されました。


浮かぶ風船につけられた文字で三回目のオープンスタジオは知らされました。


音羽「みなさんがミーティングしている場所で制作しました。緊張して集中できませんでした。」





音羽:「日用品の断片を配置してみては崩して、また配置し直すっていうのを何度も繰り返していました。オープンスタジオが終わっても何度も取ったり付けたりを繰り返している期間が長かったのですが、何か画面に変化がある度に社員さん達が「今度こそ完成?」「風景にみえる」「基盤にみえる」と色々と声をかけてくださっていました。

その時の私はここで何を作るべきなのか迷っていた時期で、そういう風な状態を社員さんたちも日々見てくれていたので、作品の出来上がった時の見え方が、完成品だけを目にするのとは、違っていたんじゃないか、過程を見ていたぶん、出来上がった作品が真っ白になっていることに驚いたと思うんです。」



突然、画面に並べていた構成要素をなくしたのは、どんな心境だったのか?

音羽:「この3ヶ月の期間で、私はこのHamee という場所で何を作るべきなのか、ずっと悩んでいて、それはきっと、アーティストとしてこんなにいい待遇で迎えてもらったからには、立派なアーティストにならなきゃいけない、Hamee という場で作ることの意義を感じられるような素晴らしい作品を作らなきゃいけないと思っていたからで、そう考えている間は、自分の思いつく構想にも自分自身の在り方にも、違和感がつきまとっていました。

私にとっても、自分のスタジオから外に出て、たくさんの知らない人に囲まれて制作するっていうことが始めてだったので、通常の制作とはやっぱり違っていて、自分自身の精神面のコントロール?というか調整?が必要でした。

でも私は急に立派なアーティストに変身したりもしないですし、雷に打たれたように天才的なアイディアをひらめいたりもしないので、本当は考えるまでもなく、私のすべきことはとてもシンプルで、今まで私がやって来たことの続きしかできないし、それこそが私ができる最大限に誠実な仕事なんだ、という当然のことに行き着くまで、まるまる3ヶ月使ってしまいました。

自身のスタジオにいても、企業にレジデンスで来ていても、どこにいてもアーティストが「美しい」とは何なのか、を定義する仕事だということは変わらなくて、私自身も私以外の何者でもない。という当たり前のことに改めて気づいた時、最後の絵をどうしたらいいのか、おのずと理解できました。

自分の中の余分なものを捨てていくのと同じように、この絵に必要無いと感じるものを1 つずつ外していって、最終的に断片の痕跡と、たくさんの余白だけが残りました。

余分な装飾は全部取ってしまったので、素っ気ない画面を社員さんたちに、どうやって見たらいいかわからないよ。と言われてしまうかもしれないとは思ったんですけど、Hamee のみなさんと、自分自身を、信頼することで、その時の自分にできる最大限の誠実な仕事ができたと思います。」





音羽:「レジデンスの期間が終わった後にHameeに伺った時に、ある社員さんに「音羽さんの記憶が会社の色んな場所で、残っているように感じるんですよ。」と言われたことがあって、物はないのだけど、痕跡と目に見えない記憶だけを残した画面っていうのが、今回の3ヶ月間という時間を表しているような気がして、初めはどんな風に着地するかわからなかったレジデンスでしたが、ワクワクと不安でいっぱいでしたが、ちゃんと繋がってたんだなー。と感じました。」

樋口:「白くなったキャンパスは音羽さんの作品の一部だという見方をしていた。やっと完成したと思うと、次の日に来たら(画面に)何もなくなっちゃってる、一所懸命作業していてそろそろ完成かなと思うと、また無くなっちゃうってのを繰り返していて、いろんな人が心配して声をかけていた。

同時に「何を作ってくれるのかな」と期待も凄く大きくなっていた。音羽さんはその期待の膨らみを感じながらも、結果的に白いキャンパスを出してきた。近くで見ていて、それは凄い勇気の要る事だと思った。

仕事をしていると色んな意見やアイデアを頭の中で思っているけど、一歩を踏み出して形にするには勇気がいる。会社の中には表に出せなくて勿体無いものもきっとある。凄いプレッシャーの中で、最後にドンとやったのを見て、これが、クリエイティブ魂に火がついて、他の人にも火をつけるという事なのかと思った。

音羽:「確かにとても勇気と時間が必要でしたが、最終的には自分が美しいと感じるものに対して誠実でありたいという思いに迷いはなかったです。自分の中の必然性に逆らわずに完成させて初めて、いい絵なったと思えました。」

菊竹:「新入社員が入るタイミングでスタートさせたAIR in Hameeは、音羽さんのように日常の素材をうまく使っていくプロセスを見ることは、いわゆるアーティストやアートに触れてこなかった人たちにとても理解しやすいのではないかと思った。その中で糸電話だったり双眼鏡だったり、ロッカーなど、社員の方とのコミュニケーションを積極的に有効に制作していきながらも、最終的に構成物を取り除いた真っ白なキャンバスを出したことに、鑑賞者とちょっと距離をとっている印象を受けた。最後にそこに着地した気持ち、なぜキャンバスの上に色々置いていたものを取り除いたのかを聞いて見たい。」

音羽:「それまでの2か月間でたくさんの人と関わって、楽しいけれど自分の中で無理してたところもあって、ちょっと一人で考える時間が必要だったのかもしせません。

私たちの人生には、記録する手立てもなく、数えもしなかった日が無数にある。そういうものをどうしたら見つめられるんだろうって気持ちが私がアートを作る理由の根底にあって、今回の最終的な作品よりも過程に意味を与えるというコンセプトとその気持ちが繋がったときに『痕跡』という在り方が一番相応しいと思った。あの絵の中には社員さんから頂いたものや、コーヒを淹れてもらった時のゴミの断片なども含まれていて、それがオープンスタジオ以外の日も含めたHameeで過ごした日々を象徴していると思う。」


紫陽花の時期に、Hamee社員と一緒に小田原城の麓でお弁当を食べた時の一幕。前列右から3番目が音羽さん


菊竹:「ギャラリーの仕事の役割の一つに、どれだけ社会にアーティストを増やせるのか、社会を芸術化させていくことができるのかをアーティストと一緒に考えて色んなプロジェクトを作っていくのも一つの大事な仕事。かつアーティスト・イン・レジデンスが美術の専門機関ではないこういう会社の中で行われたことは、とても貴重な場だと思うし、音羽さんの一連の動きはいい成果だなと思いました。」

イケムラ:「『勇気』のことについて話がありましたが、それは年齢や性別に関係なく自己発見のなかでの非常に良いプロセスだと思う。アーティストは最終的には一人なんですけど、でも他の人に含まれて一緒に仕事をする大切さを経験することは、私にとってもいつまで経っても大事なんです。今日も真鶴で私自身も石を使ったことがないので凄く迷ったんです。でも私はやったことないことをするのが今でも好きなんです。いつもチャレンジだと思うんです。それにアーティストって何だろうって今でも思うんです。アーティストとそうでない人の区切りはそんなになく、みんな何かを作りたい、何かを表現したいって気持ちは私たちの中に経験や年齢に関係なくずっとある。そういった気持ちが新鮮な形で今日は感じられたので嬉しかった。」

樋口:「誰でも何かを持っている。必ずしも絵を描いたり彫刻することではないかもしれないけど、物質的に生命のDNA的なのか、宇宙が小さいところから進化成長して、自分たちは進化成長の一番前にいると思うんです。そうすると自分たちはすごい力を持っていて、自分でこういう事業をしよう、ああしようこうしよう、こうしたら面白いビジネスを作れるかなとか、こういう人が使ってくれるかなという妄想をして昔から事業や新しい何かを作ってきている。私の場合は絵ではなくビジネスや発想。他の人は、文章を書くことかもしれない、友達、恋人や家族といい関係を作ることかもしれない、何かしらプラスの新しい価値を生んでいくような、物質的にも生命的にも持っていると思っているんですけど、、なぜか大人になってしがらみがあると、子供の時は出せていた潜在的な力を出せなくなってきたり忘れてきちゃっている。会社に入る前はこうしようあしようと思っている。でも実際日々仕事をしていると色んなしがらみがあって、やりたい事も出せなくなってくると思っている。

人は本来、アートのようなクリエイティブなものを持っているわけで、できるだけHameeのみんながクリエイティブ魂に火がついてる状態を作れたら、そこからいいプロダクトやサービス、事業を生み出せて、それをつかってくれる人たちの本来持っているクリエイティブ魂にも火をつけられるんじゃないか、色んなクリエイティブ魂の形があるけど、何か前に進もう、進化しよう、させようという、何かに火をつけられるんじゃないかなと考えている。」

水沢:「芸術作品が生まれてくるっていうのは、ある種の芸術をめぐる神話と思い込みがあって、アーティストがピラミットの一番上にいるかのように思いがちなところもないわけではない。アーティストはみんな崇めるし、もちろん大切な存在であることは歴史が証明している通りなんだけど。普段の時間と空間の中に入っていった時に、アーティストがことさらにアーティストであるという状態はちょっと変なんじゃないという気がむしろして、普通にクリエイティブな精神が自発的に動くような状態というのが、むしろ自然に空気に包まれていたり、人間という全ての存在に、ある意味浮遊しているような浮力のようなものを持っている状態、その柔らかさみたいなものを感じないと、どうしても既存の価値観の方、みんなが認めている方に知らないうちに行って頭がガチガチになるって事はよく起きてしまうことじゃないかと思います。

今回のこういうプロジェクトが持っているすごく大事な点は、音羽さんが「〜しがちになってしまうから」と言っていた、「しがち」になっている状態にいつのまにかなってしまうと、「しがち」をやっていればいいになってしまう。そうすると何も発見しないで、「しがち」な私を追認してる、認めている、それを自分より偉い人が認めてくれていればもう満足してしまう。そうすると序列の中に入ってしまう。そういうものではない、みんなある意味フラットで、上下がなくて、周りにある様々な出来事、流動しているような状態に対して敏感であると、こだわりがなくなって、ふんわり浮いたような状態に近づいて行き、色んなものを見つける事ができるかもしれない。

そういう状態を、これからかなり意識的に、何もしていないかように外から見えてしまうかもしれないんだけど、でもそれが面白い事がたくさんあるんだっていうヒントを会社として仕事をしている空間の中でアーティストがいる事でヒントを作っているとすごく思う。それは様々な形で試みる価値がある。

美術学校で一生懸命、絵や彫刻や表現の技術を学ぶことは技術の修練だし、必要だし無駄ではないかもしれないんだけど、そればかりにとらわれると、その中での技術の競争だけをしているみたいになってしまう。そうすると上手くなることだけを考える精神になりがちになる。そういうのをちょっとほぐす、もむ、ほどく、解放する、そういう仕組みを作っていく、環境の状態を作れるようにしていくことが、これから最早物質文明がやたら豊かになることはありえないわけだし、組み合わせと構図がより安心できて、みんなが知恵や経験を寄せ集められるようにしておかないと最終的に絶対にクリエイティブにならない。天才を待望したってしょうがない。やっぱりみんなの中にある才能がより寄り集まってくる状態を作る。アーティストはそういうものに一番気づいて、気づきを促す存在になりうる。それがアーティストインレジデンスが成立することだと強く感じました。」

観客席からも活発な質問が繰り出された。

観客席:「作品の色味は、会社の雰囲気に合わせたのですか?」

音羽:「会社に合わせたわけではない。自分の使いたい色を使った、学生の頃から同じような色味です。」

観客席:「私もキャンパスにモノを貼る行為をするのですが、物質の存在感が目立ちやすいことに抵抗感はないですか?」

音羽:「私は絵の描き方がよくわからなくて、ある時、はたと気づいて、服をコーディネートするのが好きで、それは異質な素材感を組み合わせるのが楽しい、そんな風に絵を作ってもいいのかなって思ってコラージュを始めた。物質の存在感をあえていいなと思って使っているので、物質感が目立って嫌だなと思ったら取ってしまう。最後の作品は、画面上でインスタレーションをやっているイメージ。むしろ絵の具をどう使っていいか最早わからない感じになっています。」

観客席:「音羽さんの作品のステートメントを見た瞬間に、これは初見では分からない作品だと思った。今日のシンポジウムの話をちゃんと聞かないと理解し得ないモノだし、それが多分アーティスト・イン・レジデンスの本質なのかと思った。音羽さんの言葉の一つひとつが印象的。痕跡を残していく、会社の記憶、社員の方との交流を、最終的に平面にするという制限、痕跡を剥ぎ取っていく行為が最終的に、音羽さんの人間性の器が実態として残っている感覚を覚えました。今回の音羽さんの実践を経て今後どのような形でこのアーティスト・イン・レジデンスを発展させていくのかお考えを伺いたいです。」

樋口:「音羽さんが来る一年以上前からアーティスト・イン・レジデンスの事を考えていたが、当初は、すぐ始まって、すぐ終わるものだと思っていた。音羽さんが三ヶ月間悩んで、でも何かが見えてきて、確信に変わってきて花開いた絵。いろんなプロセスやフェーズがあり、今日、最終フェーズが終わって、ここの皆さんからこういう質問が来るんだ、こう答えるんだ、こういう風に見られているんだと初めて知って感じた。ここから「次どうしようかな」という話が初めてできるのかなという気持ち。多分、次もあると思います。」

観客席:「アーティスト・イン・レジデンスをした後に、社内に目に見える変化はありましたか?」

樋口:「社内にアート作品が増えてきて、好きなことをやる人が増えてきた気がしています。」

観客席:「会社に3ヶ月もアーティストが滞在して何かを生み出すシチュエーションに物凄く驚いて感銘を受けている。ぜひ続いて欲しいと思っています。今回は社内での開催でしたが、今後は小田原市内に核を増やすなど、アーティスト・イン・レジデンスに限らず広げいていく視野はお持ちですか?」

樋口:「具体的にはないですが、実は将来、小田原で他の人を巻き込んで、小田原の中や外に向けて活動していくArts Odawara準備委員会を作っていて、今回のAIR in Hameeがその初のプロジェクトでもあります。ただ、具体的に何していこうというのは、まだありません。」

水沢:「この出力したものを回収した方がいい、この中で見つけた伏線を育てること。続けると、追求したほうがいいチェックポイントが見えてくるので絶対続けるべき。ただ、あまりにも極端な振れ幅で色んなことをやろうとするのは、、進むべき道がすでに示されている気がする。それが何なのかは、関わる人と意見交換をして次へと持続させるのがすごく大事、音羽さんとのつながりも大事にして、持続性のあるリサイクルをしていく、変にたくさん増えていくんじゃなく、小さくていい感じのスケール感で進んで、小田原の文化をさらに豊かにする、無理はしなくていい。必ず続けることかな。」

イケムラ:「私も絶対に続けて欲しいと思います。どこかに繋げる。いわゆる成果より、たくさん作ったり残すのではない、プロセスを大事にする。あるいは作家自身の生き方について考えるチャンス。そのフィードバックが会社に影響するものだと思います。それは素晴らしい計画で、これをここだけにしておくのはちょっと勿体無いと思います。こういった計画を続ければ、他にも発信することができると思います。とにかく小規模だけど続けていって繋げていく。日本だけの問題じゃなくて、いろんなアーティストインレジデンスあちこちにあるんですけど、この形はとてもユニークだと思います。頑張ってください。」

菊竹:「この第一回目の企画を実施したのをもっとみんなに知ってもらったほうがいいと思いますし、みなさんが悩まれながら進めたことが、とても面白いことだと思っていて、そこのプロセスを社員がどういう風に受け取ったのか、関係者の声を改めて拾って外に向かって積極的に見せていくような第一回目のプロセスを纏め上げて見せていく情報発信は是非していくと、外からの意見を呼び込みやすくなっていくと思います。」


女子美術大学洋画専攻の大森悟教授:「学生時代から知る音羽さんが、Hameeの中で、サイトスペシフィック、場所・環境の特性、潜在的にあるものを音羽さんがどう捉えていくのかに関心があった。社員に関心を持ったことにアーティストとしての、社員が傍観者ではなく鑑賞者になっていることに気付かされたりして、見えてるものを鑑賞して考えて深めていくというのは中々あるようでない。

空中ブランコをイメージした。アーティストは本当に飛ぶ気で、タイミングを取りながら振って、『信頼』する。社員は反応はなくてとんでも受け止めてくれるのだろうか?でもアーティストは思い切って飛ぶ。今回は、飛ぶ直前まで行っていて、社員の方もだんだん音羽さんの真剣さに気づいてタイミングを取り初めて、いよいよ手を伸ばして「取れるよ」くらいまで行っていたところで終わった。1回目としては非常にいい次に橋渡しする関係が構築できた。レジデンスで体験・経験しつつ、そこの平面絵画に戻ることに可能性を感じたのは、フレームの内側にさらなる自由があったんだなと気付かされたのはこのHameeの環境ともリンクしてきて、フレームの構造の限界というかしがらみを感じるところに対して、もう一度取り払っていくことで自由度を持たせる、絵画的な面白さと考え方に繋がってきて中々いい橋渡し、次への継続性へのスタートが見えました。

準備委員会としては、小田原に広げるというビジョンで、随分先のビジョンに対して真剣に想っている。是非、継続性を持って展開していただけたらと思いますし、力を貸していただければと思いますので、よろしくお願いします。」

最後に
AIR in Hameeの開催に、ご尽力いただきました、アートプロデューサーの小林俊樹さんに、この場を借りて御礼を申し上げます。

主催:Hamee株式会社、女子美術大学
後援:Arts Odawara準備委員会


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