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「豊かな人間関係がこの社会には必要」商社勤務を経てカタリバに転職したわけ

※この記事は、2019年11月24日に、認定NPO法人カタリバのオウンドメディア「KATARIBA Magagine」に掲載したものです。Wantedlyからカタリバを知ってくださった方にもぜひ読んでいただきたい記事のため、転載しました。

カタリバが運営するアダチベースは、地域に暮らす子どもたちにとって心の安全基地。さまざまな困難を抱えている子どもたちに、学習や体験、食事の場所を提供しています。

アダチベースの職員・小泉諒は、もともと株式会社ミスミグループ本社で企画から販売までを手掛けるビジネスマン。ビジネスセクターからソーシャルセクターに転身したその選択の背景について聞いてみました。

認定NPO法人カタリバ アダチベース
小泉 諒
1992年生まれ、関西外国語大学 外国語学部英米語学科卒。大学卒業後、3年間、株式会社ミスミグループ本社で企画~販売までを手掛ける。その後カタリバに参画し、「日本に住んでいる人に“もう一つの居場所” を届ける」「生涯現役でやりたいことをやる」ことを目標に活動している。

商社で養った課題解決力を
ソーシャルセクターで生かしたい

ー前職はどのような仕事をしていたのですか?

新卒で製造業専門の商社、ミスミグループに入り、金型の部品をつくる部署に配属されました。ぼくの仕事は、2,000ページくらいある商品カタログの中で、例えば100~300ページを担当として割り振られ、その商品についての企画・製造・販売・クレーム処理などあらゆることに対応するというものでした。その中でも、発生した問題に対してあれこれ試行錯誤して、関係各所と調整しながら解決していく、「課題解決のプロセス」にやりがいを感じていました。工場で作っているもので問題が発生したら、すぐに工場と話し、システムにエラーが出たら社内のシステム課、社外に依頼しているものは社外と交渉、など様々な関係者と調整をしながら問題を解決しなければなりませんでした。

課題解決のプロセスは出口が見えるまでしんどいときもありましたが、自分の働きかけで商品が改善されていく手応えは感じていました。おかげさまで、課題解決力には自信がつきました。

ー手応えを感じていた最中、ソーシャルセクターで
 働きたいと思ったきっかけは何だったんですか?

ぼくの父が自営業だったからか、幼い頃からなんとなく自分も将来は経営者や起業家として社会に貢献するものだろうと想像していました。だからこそ、ミスミに入社するときも、「社員一人ひとりが経営者の視点で働こう」という考え方に惹かれたのかもしれません。

ビジネスセクターで3年働いて、目の前の課題を解決する力や社会人としての基礎力を身につけられたなと思った時に、今度はゼロベースで課題解決に挑戦してみたいと思うようになって。

それで、自分がやりたいことは何なのか、社会に対してどのように関わっていきたいのかを、改めて考えました。その時、大学時代に読んだ本のことを思い出したんです。ソーシャルセクターで働く人たちの本で、Microsoftを辞めてルーム・トゥ・リードという途上国の子どもたちの教育支援をするNGOを作ったジョン・ウッドさんや、子育て家庭の支援をしている認定NPO法人フローレンスの駒崎さんなどが紹介されていました。彼らの、「社会課題はこれ、解決するためにこう動く」というシンプルな動機と行動力にとても共感しました。

どうせ生きていくなら、自分の生命を、シンプルに困っている誰かのために使いたい。そう思うようになり、ソーシャルセクターで働くことについて興味を持って、調べ始めました。

留学中に初めて感じた孤独
体験から学んだ人間関係の重要性

ー小泉さんが解決したいと考える
 明確な社会課題があったのですか?

実は、これというものはなかったんです。ただ、誰にでも「利害関係のない人間関係」って必要だよな、と過去の自分の経験から思っていました。というのも前職のとき、休日はカフェでゆっくり自分の時間を過ごしていたんです。何度か行くうちに、常連の方と仲良くなって、仕事の話や人生相談などをするようになりました。ぼくの中では「どうすればいいかわからない」ということでも、おじさんおばさんからの「そういうもんよ」とか「こうしたらいいんじゃない?」というアドバイスが、ぼくの悩みをフッと解消してくれたんです。

もともと全然知らない人たちだからこそ、気軽に話せたというか。自分とは全く違う人生を歩んできた人たちからもらえる視点が新鮮で、説得力もあり、何度も救われました。後日、カタリバのホームページで「ナナメの関係」というキーワードを見つけた時はピンときました。これだ!と。

それともう一つ、良い人間関係が生きるエネルギーになることに気づいた経験があって。

大学3年のときに、大学のプログラムでアメリカのシカゴに8ヶ月間交換留学に行きました。その滞在中、人生で初めて孤独を感じる体験をしたんです。

それまでのぼくは、小学校からの野球仲間と遊んだり、家族もいつも側にいて、自分のコミュニティがあたり前にあることに慣れきっていたんですね。でも、シカゴに着いた途端、これまでの人間関係は全てゼロ。英語も通じない。言いたいことが言えない、知りたいことが知れないというのはものすごくストレスで、思考もどんどんネガティブになっていきました。終いには、自分の存在すら疑うような状態に陥ってしまいました。

ーそれは辛い状態ですね
 留学中に乗り越えることができたのでしょうか。

はい。渡航して1ヶ月くらい経ったある日、大学の食堂でランチを食べようと並んでいたら、給仕をしてくれる女性スタッフが、「いつものでいいの?」と声をかけてくれたんです。「えっ?」と思わず聞き返してしまったのですが、この一言が本当に嬉しかった。自分のことを見てくれている人がいたんだ!と気づいた瞬間でした。

最初は知り合いがいないのは当然、だけど時間をかけて回数を重ねているうちに、人間関係はできていくんだ、そして自分がどう関わるかでどんな関係も築けるんだと気付かされました。カタリバの「未来は、つくれる」というビジョンにも通じますよね。

単純かも知れませんが、ここから徐々に自信を取り戻し、ポジティブに物事を考えられるようになっていきました。色々なことにチャレンジしていけるようにもなって。そんな風に、どん底まで落ち込んだ時に再浮上する原動力となった、「人間関係の豊かさ」は生きるエネルギーになるということを、身をもって体験したんです。

目の前の子どもたちにチームで向き合っていく

ービジネスセクターからソーシャルセクターへの
 転職に不安や迷いはなかったんですか?

不安や迷いはなかったと言えば嘘になります。特に転職にあたって、ソーシャルセクターを扱っているエージェントが少ないので、自分で探して直接団体にアタックしていったのですが、本当にぼくのような経歴の人間が雇ってもらえるのか不安でした。

でも、カタリバの人事の方との面談で親身に相談に乗っていただき、キャリアについて適切なアドバイスも貰いました。そんな雰囲気や姿勢からも、カタリバで働くことに興味を持ちました。

ー現在は困難さを抱える中高生を支援する仕事をされていますね
 前職とのギャップはどのように埋めていったのですか?

価値観や慣習などのギャップがあることは承知で臨みました。最初の半年間は、中高生を支援する上で自分に足りない知識やスキルをとにかく吸収する期間でした。自分から何かを提案したりアウトプットしたりするには力及ばずで悔しかったですが、この期間に拠点の価値観や方針を丁寧にすり合わせたことで、その後の半年間がすごく濃密になりました。

ー実際に10代の思春期世代と関わって、
 どんなことを感じていますか?

チャレンジに臆病になっている子が多いなと感じています。ぼく自身も失敗を恐れて何もしないことを選択するときがありますが、でもそれってもったいないなと思うんです。失敗を恐れずに「まずやってみること」が大事。たとえ失敗しても、そこから何を学び、その後にどうつなげていくか。子どもたちとの対話や関わりから、少しずつでも伝えていけたらと思っています。

あと、子どもたちに言うからには、自分も色々なことにチャレンジしていかないと、と意識しています。自分の背中を見せながら、彼らの一歩踏み出す勇気を引き出したい。こんな風に「ありたい自分の姿」が見えてきたのは、同僚であるアダチベースのメンバーのおかげでもあります。チームメンバーのおかげで成長できている部分も大きいですね。

ーチームのメンバーとはどんな風に連携したり、
 コミュニケーションをとったりしているんですか?

ここには様々な困難さを抱えている子どもが通ってきています。課題の理由や深刻さなどの状況はそれぞれなので、日々色々なことが起こります。例えば、感情のコントロールが苦手な子が、自分や他者を傷つけるような言動をしたとします。そういうときには、強く「NO」を伝える必要がありますが、子どもから「嫌い」と言われたり無視されたりすることもあって、最初はやっぱりつらかったですね。

でも、上司や先輩に相談するとまずは話をよく聞いてくださり、「子どもの『嫌い』は本心ではない可能性が高い。大人の言葉とはずいぶん違って、その背景に何があるのかを知ろうとするのが大切」と教えてもらいました。

次の日には、別のスタッフが子どもに「昨日、小泉さんがああ言ったのは、こういう気持ちだったんじゃないかな」とフォローしてくれる。1人で対応するのではなく、チームで状況を見ながら相互にフォローし合うという風土があるので、スタッフは安心して本気で子どもと関われます。

重要なのは、一日の終わりに行う振り返りをするミーティングできちんと共有すること。「もっとこうしたほうがよかったね」「これが背景としてあるかもね」と1人の子どもについての「見立て」を複数の視点から形成していくことで、スタッフみんなの視点も合い、同じ方針で子どもと関わっていけます。

こういった毎日の積み重ねで、全く別の業界から飛び込んできて、子ども支援に関しては初心者だった自分も、少しずつ自信を持てるようになってきました。

ー最後に、今後のビジョンや目標があれば是非教えて下さい。

まずはここに来る子どもたちとしっかり向き合いたいです。彼らは自身ではどうにもしがたい状況に置かれていることがありますが、でもそれは一生変わらないわけではない。1人でもいい、誰かの支えがあって、失敗しても学んでまた挑戦することができれば、自分で未来をつくっていける。そのサポートをしていきたいです。

それから、子どもにとっても大人にとっても、誰にとっても「ナナメの関係」のような良い人間関係があることで、人生が豊かになっていくと思います。自分の人生を主体的に生きていくエネルギーが湧いてくると思うんですよ。

今、自分の手の届く範囲は拠点にいる約60人の子どもですが、ゆくゆくは、世代を問わず、「ナナメの関係」があふれるような居場所をつくっていけるような人間になれたらいいなと思っています。

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